KVM FORUM 2018 で発表されたTowards a more Scalable KVM Hypervisorについてのメモ。

[PATCH v8 0/4] KVM: X86: Add Paravirt TLB Shootdown

ゲストOSはOSレベルの同期機構であるTLB shoot downやRCUの処理において、ホストOSのスケジューラの影響を受ける。ベアメタル環境であればすぐに完了する操作であっても、仮想環境上ではその遅延を無視することができなくなる。

TLB(Translatoin Lookaside buffer)は仮想メモリアドレスと物理メモリアドレスのマッピングをキャッシュするために使われる。あるCPUがそのマッピングを切り替えたとき、その以外のCPUでTLBをflushしなかればならない。これを TLB shoot down と呼ぶ。

モダンなOSでは、TLB shoot down はパフォーマンスクリティカルな箇所として位置づけされ、この処理によって遅延が発生しないようチューニングされている。TLBのflushはすぐさま完了するという前提で、IPI(Inter Processor Interrupt)で実装されている。Remote CPUのTLB flushの完了は busy wait で待っているため、ベアメタル環境とは相性が良い。一方で、仮想環境ではvCPUが別のゲストに横取りされたり、実行がブロックされたり、ということが起きるため、長時間にわたって busy wait が継続することになる。

この問題は、準仮想化TLB shoot down によって解決できる。準仮想化TLB shoot down では、動作していないvCPUに対する操作を遅延させておいて、次回そのvCPUが起動するときに、KVMがTLB flushを担当する。特にオーバコミットされた環境で顕著なパフォーマンス向上が見られる。

ゲストとホストどちらからも参照できるメモリ領域に「あるvCPUが preempt されたかどうか」を示すフラグを用意しておく。pv_mmu_ops.flush_tlb_others関数は、アクティブなvCPUに対してはIPI経由でTLB Flushの通知を送り、そうでないvCPUに対してはKVM_VCPU_FLUSH_TLBフラグを付与しておく。その後、KVMはKVM_VCPU_FLUSH_TLBフラグがついているvCPUを起動する際に、INVVPIDを発行する。VM数が増えるに従ってこのチューニングの効果が顕著に現れる。